前回述べましたように,電気接点の劣化現象の研究は極めて重要なものです.そこで,振動環境下における電気接点の劣化現象の実験を行うために,ハンマリング加振機構を設計・開発しました[1][2][3].
ハンマリング加振機構とは
ハンマリング加振機構は,試料台に取り付けた被加振物をハンマでたたくことで,被加振物に取り付けられている試験対象物に振動をあたえ,試験対象物にどのような影響がでるかを調べることができるものです.加振は,ハンマをほぼ自由落下により振り下ろすことで行われます.バウンス制御機構( 2 度たたき防止機能)を搭載しており,1 度の加振で 1 回のみ基板に衝撃力を与えることができます.
加速度計測と加速度ピックアップの質量の影響
加振時の試験対象物の加速度は,試験対象物またはそのそばに加速度センサを取り付け,計測します.連続加振の実験時には,センサを取り外しておくことを考慮しますと,計測時はできるだけ質量の小さいセンサを用いるのが理想といえます.
過去において使用した,3 つの加速度センサ(小野測器社製:NP-3572,NP-3560B,NP-2106)における質量の違いによる影響について検討しています[4].各センサのヘッド部の質量は,NP-3572 が 8.1 g,NP-3560B が 5.29 g,NP-2106 が 0.2 g です.
ここで,加速度測定対象に作用する力を ,加速度測定対象の質量を ,加速度センサのヘッド部の質量を ,加速度センサを取り付けないときの加速度を ,加速度センサを取り付けたときの加速度を とおきます.
するとニュートンの運動の法則(第2法則)より,加速度センサを取り付けないときは,
となり,加速度センサを取り付けたときは,
となります. を消去しますと,
となって,加速度比が,
によって計算できます.
図 1 は,この計算式を利用して,横軸に をとり,縦軸に をとってプロットしたものです.
図 1: 加速度ピックアップの比較
図 1 より,NP-3572 と NP-3560B で計測した場合,加速度測定対象の質量が 20 g 以下になると,加速度ピックアップを付けない場合の 0.8 倍未満の加速度が計測されてしまうことになるのがわかります.したがって,質量が小さな電子デバイスを搭載した基板上の加速度を計測する場合は NP-2106 のような,より小型の加速度センサを使用する方が良いということになります.
ハンマ初期角度と加速度
ハンマの重さと初期角度を変えて,両面実装ガラスエポキシ基板を加振し,基板の加速度を計測した結果を図 2 に示します.凡例の値は,試料台の所に秤を置き,それぞれのハンマを置いた状態で計測した静荷重の値です.
それぞれの質量のハンマを用いて基板を加振し,1 回の加振に対する加速度波形の時系列データをとり,各波形の振幅の最大値を計測します.この計測を 15 回行い,それらのデータの相加平均をプロットしています.標準偏差は最大で 2.7×103 m/s2 です.加振点(×)と加速度センサの取り付け位置(●)を図 3 に示します.
図 2 より,加振時の基板の加速度の振幅の最大値は,ハンマの初期角度にほぼ比例することがわかります.
図 2: ハンマ初期角度と加速度絶対値の最大値との関係
図 3: 基板における加振点および加速度ピックアップ取付位置
ハンマと被加振物との接触時間
ハンマと被加振物との接触時間の計測結果を図 4 に示します[5].ハンマと被加振物に電極を取り付け,ハンマと被加振物が接触している間,電圧が上昇するようにして計測しています.計測に用いた被加振物は,両面実装ガラスエポキシ基板,片面実装ガラスエポキシ基板,紙フェノール基板,銅被覆プリント基板,アルミ板,の 5 種類です.
図 4: 加振時のハンマと加振対象との接触時間の関係
図 4 より,ハンマと被加振物との接触時間は,ハンマの初期角度には依存せず,同じハンマの場合,被加振物の違いに依存することがわかります.これは,被加振物の粘性や弾性による影響であると考えています.
参考文献
[1] ハンマリング微加振装置(製品版), http://www.tmcsystem.co.jp/product/hammering/
こっしーのプロフィール
TMCシステムの研究担当者.電子情報通信学会の会員.
得意分野は数学と機械工学.
趣味は読書.特技はペン習字.
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