フーリエ級数の収束

和田先生
こんにちは.前回宿題とした,フーリエ級数が収束するための十分条件であるディリクレの条件とは,どのような条件かわかりましたか?
こっしー君
はい,おおむね次のような条件です.

前回の式(5)F(t) になるためには,連続点 t において,

(I) F(t) は区間 (c-L, c+L) で高々有限個の点を除いて定義されていて,1価である.
(II) F(t) は周期 2L の周期関数である.
(III) F(t) とその導関数 F'(t) は区間 (c-L, c+L) で区分的に連続である.

このとき,級数式(5)は,

F(t) に収束する(F(t) が連続な点 t において).

{F(t+0)+F(t-0)}/2 に収束する(F(t) が連続でない点 t において).

この定理は証明できますが,ここでは省略します.
この定理によって,
連続点 t においては,

   .   (7)

不連続点においては,

     (8)

となります.

和田先生
F(t+0)F(t-0) は, F(t)右極限値左極限値というものですね.ここで,高校で学習する関数の極限値について,簡単に説明しておきましょう.

変数 ξ の関数 ϕ(ξ) があるとします.ξ を限りなく α に近づける」というのをξ→αと書きます. α のところは有限な値だけでなく +∞-∞ でもかまいません. ξ→α のとき ϕ(ξ)→η となることを

      (*)

と書きます. η有限な値となるときϕ(ξ)η収束するといい, η のことを極限値といいます. α+∞-∞ ではないときは, ξα より大きい方から限りなく近づけていく場合と, α より小さい方から限りなく近づけていく場合を考えることができます.

ξα より大きい方から限りなく近づけていく場合をξ→α+0と書きます.そして,

      (**)

とするとき, η_+有限な値となる場合, η_+ のことを右極限値といいます. ϕ(ξ) をグラフにするとき,普通は ξ の軸を横軸として右向きを正としますので, ξ→α+0 とするようすを見ていると,点 (ξ, ϕ(ξ )) が右側から点 (α, η_+) に近づいていくように見えます.式(**)を省略形式にする場合,

   

と書きます.

ξα より小さい方から限りなく近づけていく場合をξ→α-0と書きます.そして,

      (***)

とするとき, η_-有限な値となる場合, η_- のことを左極限値といいます. ϕ(ξ) をグラフにして, ξ→α-0 とするようすを見ていると,普通は点 (ξ, ϕ(ξ )) が左側から点 (α, η_-) に近づいていくように見えます.式(***)を省略形式にする場合,

   

と書きます.

α+∞-∞ でないときは,式(**)式(***)が等しくなるときのみ式(*)のように書くことができます.
こっしー君
正確には式(*)に対しては,εδ 論法」を用いて,

   

と表現しています.意味は,

「任意の正の数 ε に対して,“すべての実数 ξ において, ξα との差が δ 未満ならば, ϕ(ξ)η との差が ε 未満”となるようなある正の数 δ が取れる.」

ですが,直感的には,極限記号の方がわかりやすい気がします.
和田先生
そうですが,連続や収束には,この論法の方が正確に表現できることがありますので,この方法を用います.

ところで,条件(III)に出てくる,「区分的に連続」とはどういうことでしょうか.
こっしー君
言い換えると,高々有限個の不連続点をもち,有限な値をもつ,という意味です.関数に置き換えると,

  1. 各部分区間で F(t) が連続になるように,区間 I を有限個の部分区間に分割できる.
  2. t を部分区間の端点に近づけたときの F(t) の極限は有限な値である.

和田先生
そうですね.

このディリクレ条件を満たしていれば,多少変な関数であっても,式(7),および,式(8)が成り立つというわけです.次のテーマは,不連続点を持つ関数を扱うことを予定しています.

気を付けたいのは,条件(I)・(II)・(III)式(7)式(8)が成り立つための十分条件であって,必要条件ではないということです.すなわち,この3条件が満たされるときは式(7)式(8)が成り立つといっているだけで,この3条件が満たされないときは式(7)式(8)成り立つかもしれないし,成り立たないかもしれないといっています.

しかし,現実には,理工学関係に現れる問題の場合には,この条件が満たされていることが多いのです.だから,たいていの場合は安心して使っていけます.

この問題を「フーリエ級数の収束性」と言いますが,この収束性の必要十分条件は現在のところ知られていません.また, F(t) の連続性だけでは,フーリエ級数の収束性が保証されないのです.今回考える関数は,もちろん,「フーリエ級数の収束性」を満たしていますが.

ヨハン・ペーター・グスタフ・ルジューヌ・ディリクレ(Johann Peter Gustav Lejeune Dirichlet, 1805年2月13日-1859年5月5日)はドイツの数学者で,現代的形式の関数の概念を与えたことで知られています.ちなみに,ディリクレの指導教官の1人は,上に出てきた,フーリエです.
こっしー君
無限級数を扱うときは,フーリエ級数に限らず,収束性を重視するのでしたね.
和田先生
そうですね.特に,無限級数に対して微分や積分の操作を行うときは,項別微分・項別積分をすることになりますが,このとき一様に収束するかどうかが重要でしたね.無限級数の「一様収束性」です.ただ,これも,今回では,項別微分・項別積分ができる場合に入りますので,問題はありませんが.無限級数の一様収束性は,やや煩雑な表現になりますので,ここでは言いませんが,またどこかで,お話したいと考えます.
こっしー君
和田先生,それより,簡単なことなのですが,今一つしっくりこないのが,必要条件や十分条件についてです.わかりやすい表現方法はありますか.
和田先生
それでは,次回は必要条件や十分条件についてお話ししましょう.
こっしー君
よろしくお願いします.楽しみにしています.
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和田先生のプロフィール

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TMCシステムの研究責任者.電子情報通信学会の会員.
電気接点の劣化現象などに関する論文を多数執筆.
プライベートでは,ギター演奏・料理・読書と幅広い趣味を持つ.

こっしー君のプロフィール

越田さん120

TMCシステムの研究担当者.電子情報通信学会の会員.
得意分野は数学と機械工学.
趣味は読書.特技はペン習字.

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